ドリーム小説・白バイの速い人
※この小説はドリーム小説です。○○のところに自分の名前を入れて読もう!
「遅刻遅刻~っ!!いってきまぁす!」
私の名前は○○。今日から新学期だって言うのに、早速寝坊しちゃった…
遅くまで少女漫画「メヌエット」を読んでたのが悪かったなぁ。
でもでも、こんな少女漫画みたいな朝だし、このまま走ってそこの角で「メヌエット」の誠くんみたいなイケメン転校生とぶつかってロマンスが始まったりして…
なんて考えてたら。
どーーーーん☆
ギャア!!ま、まさか…イケメン転校生!?
顔を上げるとそこにはイケメンとは程遠い顔をした、図体のでかい男の姿。彼の手には、さっきまで私が持っていたはずの学生鞄が握られている。
「!!―――ひったくり!?」
私が叫んだと同時にヤツは逃げ出した。必死に後を追いかけるも追いつくはずはなく、私は道端の真ん中で途方に暮れて立ちつくしていた…
―――と、その時。
「オラオラ待ちやがれぇぇぇぃ!!!!!!」
すさまじい音とスピードで一台のバイクがひったくり犯へと突進していった。あっという間に男は捕まり、私はその一部始終をぽかんと見ていることしかできなかった。
「この鞄の持ち主はアンタか?」
白バイにまたがった、鋭い目付きの警官が私にそう言う。
「は、はい…あの、ありがとうございます!!」
「礼なんかいらねぇよ。コイツは前から目を付けてたひったくりの常習犯だ。現行犯逮捕できて助かったぜ。 最近は物騒な事件が多いからこれからは気を付けな。あばよ!」
そう言って警官は男を連れ、再びものすごいスピードで走り去ってしまった。
そしてこの時すでに私のHEARTも逮捕されてしまっていたのだった・・・
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キーンコーンカーンコーン
放課後の教室に鳴り響くベルの音。
はぁ…
窓の外を見ていると、自然とため息が出てしまう。
「なーにたそがれてんのよ、○○!もしかして、恋の悩み??」
ニヤニヤしながら訪ねてきたのは親友の明美。
「ば、ばか!そんなんじゃないって///」
「おやおや?口では否定しても顔色は正直ですぞ?」
こういうところでは明美に全く頭が上がらない。結局今日あったことを全部打ち明けてしまった。
「ええー!?警察官に一目惚れ!?!?」
「ちょ、ちょっと、声が大きいよ…」
「どんな人?マッチョ?イケメン?身長は?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す明美。
私はもう一度、あの一瞬の記憶の中から彼の特徴を一つ一つ確かめるように思い出す。
「うーんと、キリッとした顔つきで、ちょっと怖いけど強くて男らしくて、白バイがとっても似合う人…かな…」
「ふーん、あんなに現実の男に興味がなかったあんたが一目惚れねぇ…しかもなかなかの男前臭。よし、私も見てみたいし、もう一回会いに行こうよ!!」
え。ええええええっ!?
そんなこんなで私は明美に押され、白バイの彼を探すことになったのでした…
思い立ったら行動よ!と言う明美に引っ張られ、私たちは早速、近所中の交番を訪ね回って情報を集めることにした。
「すみません、今日ひったくり犯を捕まえた、白バイのお巡りさん知りませんか?」
「ここら辺の白バイ隊で今日ひったくり犯を捕まえた警官と言ったら…本田さんのことかなぁ?」
明美の素晴らしい行動力と情報収集力により、白バイの彼は本田速人という名前で新葛飾署、特に亀有公園前派出所によく出向しているらしいとのことが分かった。
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ここ…かな?亀有公園前はしゅ、派出所…
「さ、早く行った行った♪」
明美の背中に押されながら派出所内を恐る恐る覗く。
「す、すみません…」
「はい、どうしました?」
出てきたのは派手な黄色の制服に身を包んだイケメンの警察官(もこみち似)だ。
心なしか明美のテンションも上がっている。
「あの、本田さん…本田速人さんに会いたいのですが…」
そう言う私にイケメンポリスマンは爽やかな笑顔で
「本田さんなら今買い出しに行ってますよ。もう少し待っていたら帰ってくると思うので、そこにかけておいてください。」
と言った。
えーいいんですかーありがとうございますー☆とイケメン巡査にハートマークを飛ばしながら明美はズカズカと入っていく。肝の据わった奴だ。
派出所内にはもう二人の警官の姿があった。一人はピンクの制服を着用したナイスバディな金髪の美人警官、そしてもう一人は低身長で体毛の濃い、繋がり眉毛が印象的な男性。制服さえ着ていなければ到底堅気の仕事をしているようには思えない。先の二人と凄まじいギャップを感じる。
「本田に用なんて変わった奴らだな、うー腹へったー」
繋がり眉毛に酷く言われてるみたいだけど、本田さんてどんなキャラなんだろ?
そんなことを考えていると、入り口から人の気配が。
「せんぱぁ~い、ただいま帰りましたぁ~」
「おう、遅いぞ本田!腹が減って死にそうだ」
「すみません~。途中で道案内をしていたもので…はい、先輩から頼まれていたカップラーメン10個!」
「おう。…ってこれ激辛キムチワサビラーメンじゃないか!!わしが頼んだのは激辛ワサビキムチラーメンだっ!!」
「ひえぇ~、どっちも同じようなものじゃないですか~~」
繋がり眉毛にペコペコと謝る、本田と呼ばれた人物。
その細身で弱弱しく、内股でくねくねと動く姿はまるで女の子のようだった。
えぇぇっ、今朝の人と全然ちがうじゃなーい!?
「ねぇ、あれがあんたが言ってた本田さんってやつ?」
「う、うーん?多分違うと思う…」
そっと耳打ちする明美に私は曖昧に答えるしかなかった。
「あ、そういえばあんたら本田に用があったんじゃないのか?」
繋がり眉毛が私たちに話を振る。
「い、いや、ちょっと人違いだったみ…」
「あ、朝の女の子ですよね~」
明美の言葉をさえぎるように本田は言った。
「え、じゃあやっぱり朝の白バイの人はあなたなんですか!?」
私は思わず大きな声をあげてしまった。
「アンタの話と全っっ然違うじゃない、あの本田って人。助けてもらったからフィルターがかかって、記憶の中でめちゃくちゃ美化されてるんじゃないの?」
派出所からの帰り道、明美は明らかに私のことを信用していないという顔でそう言った。
あの後、麗子さんがもらってきたという国産黒毛和牛のしゃぶしゃぶをなぜか私たちまで御馳走になったのだが、結局男らしい本田さんの姿は見ることができずじまいであった。
「でも、バイクに乗ると性格が変わるって、あの両津って人も言ってたし!」
それにしても違いすぎるとは私でさえ思うけど・・・
「ま、あたしは黒毛和牛も食べたし中川さんのアドレスもGETできたからそれだけでオッケーよん♪」
「んもぅ、明美ったら、ちゃっかりしてるんだからぁ!」
それからと言うものの、私は白バイの本田さんに会うべく、遠回りにも関わらずわざわざ派出所近くの道を通って学校にかよった。
だけどなかなか本田さんに遭遇することはなく…
はぁ、もう会えないのかなぁ、そう諦めかけていた時である。
「あ、○○ちゃん~~!」
後ろを振り返ると両手いっぱいに缶詰を持った本田さんの姿。
このタイミングの良さ、毎日のバイクの神々への加持祈祷、太占(ふとまに)による占いの効果があったのだろうか。
喜ぶ一方、あのワイルドな本田さんでないことにがっかりしている自分もいた。
「先輩から今度は『激甘ビーフカレー缶詰め』を頼まれちゃって~」
「ヒドイ。あの、今日は白バイ、乗ってないんですか?」
「派出所に停めてるよ。○○ちゃんはバイクに興味があるの?…ってわぁぁ!」
たくさん持ち過ぎてバランスを崩した本田の腕からポロポロと缶詰がこぼれおちる。
「…派出所までですよね?手伝いますよ。」
よし、自然な流れ。私はできるだけ気持ちを悟られないように缶詰を拾った。
「ただいま帰りましたぁ~」
派出所内へ入ると繋がりまゆ毛の両津勘吉がなにやらプラモデルの様なものを組み立てていた。
「なんだ、この前の女子高生と一緒じゃないか。年下の女に手伝ってもらうなんて情けないぞ本田。」
「いやぁ、助かりましたよ○○ちゃん~!あ、先輩これ、頼まれていた缶詰め10個!」
「今日は間違ってないだろうな…ってこれは『激甘ビーフカレー缶詰め』じゃなくて『激甘ビーフンカレー缶詰め』だ!!」
「なんでこんなわかりにくい商品名ばかりなんですかぁ~!!」
そんな会話を聞きながら、私は派出所前に停めてある白バイに目をやった。
「あ、○○ちゃん、白バイに興味あるんだっけ?」
「は、はい、少し!」
正しくは白バイに乗った本田さんにだけど…
「なんだ。じゃあ本田、白バイに乗ってお前のオトキチっぷりを見せてやれ!」
ナイス両津!私は頭の中で彼に100イイネ!を押した。
両津に押され白バイにまたがったとたん顔つきが変わる本田。
あ、あのときの本田さんだ!!私の胸が飛び跳ねた。
「よっしゃあ、バイクのことを知るには走るのが一番だ!!!後ろに乗れ○○!」
本田はそう言って私にヘルメットを渡し、エンジンを激しくふかす。
…えええっ!?チョットマッテクダサイヨ!?!?!?少し躊躇うもその威圧感に押され、後部に座る私。
憧れの本田さんに会うことができた感慨にふける暇もなくバイクは急発進した。
は、速い…あまりの速さと狭い路地を駆け抜けるそのテクニックに圧倒され、また恐怖もあってか自然と顔が下がって来る。
「下向くんじゃねぇ。しっかりと景色を見て、風と1つになるんだ。それがバイク乗りの醍醐味ってもんよ!!」
本田さんの言う通り、恐る恐る顔をあげて風を全身で感じる。次々と変わる景色を眺めていると、自分と外との境界がなくなっていくような気がした。
私、今…風になってる…!?
「スピードあげるぜぇ!○○、しっかり掴まってな!!!」
すぐ近くに本田さんの温もりを感じる。
この胸の高鳴りの原因は、スピード感への恐怖だけじゃない。私、やっぱり本田さんが好き!この時そう確信した。
「オラオラァ邪魔だぁ!!」
荒々しい運転の中にも確実なテクニックの存在が素人の私にも感じられる。
幸せを噛み締めていると、いつのまにか自動車教習所の様なところに到着していた。
「ここが四機(第四交通機動隊)の練習場だぜ!ちょっと降りてみるか」
と言い、バイクから降りる私と本田さん。
密着もできたし幸せ~♪そんなのんきなことを考えていたそのとき。
「あっ、菜々ちゃ~~~ん!!」
本田がそう言って走り寄った先に、一人の婦警がいた。
うわ、可愛い。華奢な手足に端正な顔立ち。落ち着いた雰囲気を持ちつつ、それでいてその瞳は爛々とした輝きを放っている。
驚くほど細いその体とは対称的に彼女もまた交通機動隊の一員らしく、傍には巨大なナナハンがどっしりとその存在を主張していた。
あまりの可愛らしさに見とれていると、その婦警が私に気づいた。
「本田さん、こちらの方は?」
「あぁ、この間の引ったくり犯逮捕に協力してくれた○○ちゃんだよ」
「私、乙姫菜々と言います。」
声もいわゆるアニメ声ってやつだ。まるで少女マンガから出てきたみたいだなぁ。
「それで本田さん、来週のツーリングの件なのですが…」
「あ、そうだったね~、行きたいとこ決まったぁ?」
何気なく交わされる二人の会話に女の勘が働く。これはただの仲間同士の会話じゃない。
ペロッ、まさか…この二人、恋人同士…?
私は一抹の不安を拭い切れずにいた。
「ちょっとトイレに行ってきますぅ」
と走り去る本田さん。
どうでもいいけど、バイクから降りた方の本田さんの動きは常に我慢してるように見える。
私と奈々さんは二人取り残されてしまった。
やっぱり二人の関係が気になる…ここははっきり聞いておかなきゃ!
「あ、あの!菜々さんって本田さんと付き合っているんですか?」
私は単刀直入にそう聞いた。
「ええ、そうよ?」
私の中でドーーン、ゴゴゴゴゴ、バリバリ、グシャ、破裏拳ポリマーー!!!デュクシ!デュクシ!!バッコーーーン!!!と何かが崩れ去る音がした
やっぱりそうだよね…わかってはいたけれど、言葉で聞くと改めてショック。
「…菜々さんは、本田さんのどこが好きなんですか?」
「え…?」
奈々さんは一瞬驚いた顔をしたがそのあとすぐ困ったような笑顔を浮かべ、こう言った。
「本田さんは私の教官でね、初めは厳しいけど男らしくてかっこいいところに惹かれていたの。
だけどバイクから降りたら全然違う性格でしょう?私も最初は信じられなかったけど、バイクから降りた優しい本田さんのこともだんだん好きになってきて…
だから、本田さんの優しいところも厳しいところも、弱いところも強いところも全部含めて好きなの。愛って、そういうものだと思うわ」
「菜々ちゃ~ん!」
本田さんが呼んでいるのは菜々ちゃん。これ以上二人の邪魔をしちゃいけないな。
「私、まだまだでした!私ももっと大人になって、菜々さんみたいなかっこいい女性になります!!」
「え…?」
本田さんが呼んでますよ、と言って私は今来た道を戻った。
菜々さんは私と2~3歳しか変わらないはずなのに、しっかりとした恋愛観を持っていて、バイクに乗った方の本田さんだけしか見ていなかった自分がいかに子供だったかを思い知らされた。
人を愛すると言うことは、その人の一面だけじゃなくてすべての面を受容することなんだ。
振り返って、遠くで私に手をふる菜々さんと本田さんを見ながら私はそう思った。
~エピローグ~
結局私の恋も儚く散り、また少女漫画の世界に浸る毎日。
さーて、今週の週刊サファイアでも読もーっと。
私は大好きな作品「メヌエット」のページを開く。
如月愛と誠の純愛ストーリー。気のせいかもしれないけれど、この二人が本田さんと菜々さんの姿に重なって見えた。
メヌエットの作者の愛野神女も、きっと素敵な恋をしているんだろーなぁ。
いつか私も、その人の全てを愛せる男の人と結ばれて、愛と誠のように、そして、本田さんと菜々さんのように素敵なカップルになれたらいいなぁ…
そう思い、「遅刻して走っている時に転校生とぶつかったときの可愛い転び方」について考えながら眠るのでした。
お☆わ☆り